以前、私が担当したコラムで仮差押命令についてご紹介しました。
今回は、仮差押命令と同じように強制執行を確実なものにするための制度である仮処分命令のひとつ、「占有移転禁止の仮処分」についてご紹介します。仮差押命令と共通する部分もあるので、以前のコラムも参照しながらお読みいただければと思います。
Aさんは、自分の所有する土地の不法占拠者Bに対し、何度も退去するよう求めてきましたが、一向に立ち退く様子がないため、土地の明渡しを求める裁判を起こしました。判決では、無事にBに対する明渡し請求が認められましたが、実は、裁判の継続中、いつの間にか土地の不法占拠者がBからCに変わっていました。この場合、AさんはCに対して、その判決に基づいて土地の明渡しの強制執行をすることができるでしょうか。
答えは「できない」です。なぜなら、判決の効力が及ぶのは裁判の当事者等に限られており、裁判の途中で(正確には、口頭弁論終結前に)占有者となった者は含まれないからです(民事訴訟法第115条)。
そうすると、AさんはあらためてCに対して裁判をやり直さなければならないことになり、余計な費用や時間ばかりかかってしまいます。
そこで、このような不合理を回避するための方法として、「占有移転禁止の仮処分」が用意されています。
占有移転禁止の仮処分とは、文字通り、債務者(B)に対し、目的物の占有を第三者に移転することを禁止するもので、仮にこれに反して占有を移転したとしても、その後の本案訴訟(今回の例では土地の明渡し請求訴訟)で勝訴が確定すれば、その判決に基づいて当該第三者(C)に対して、強制執行することができることになります。
このように、占有移転禁止の仮処分は、裁判中に占有者が変わってしまっても強制執行が妨げられないという効果がありますが、他方、仮差押命令と同様に申立てが認められるためには「被保全権利」「保全の必要性」といった法律上の要件を満たすことはもちろん、一定の担保金を納めることも必要です。
仮処分の申立てをすべきかどうかについては、十分検討する必要がありますので、不動産の明渡し問題を抱えておられる方は一度専門家に相談されることをお勧めします。