今回は、裁判に勝った後に強制執行のターゲットとする財産を、裁判の前に確保しておく方法についてご紹介します。
AさんはBさんに300万円の貸金債権を有しており、証拠も揃っているのですが、返済期限が来てもBさんが任意に支払ってくれないため、Aさんは裁判を起こそうとしています。そんな中、Bさんが唯一の財産である土地(時価300万円)をCさんに無償譲渡しようとしているという情報を得ました。もしCさんに譲渡されてしまうと、仮にAさんが裁判に勝ったとしてもBさんには差し押さえるべき財産が何もないことになってしまい、結局Aさんの勝訴も空振りに終わってしまいます。
このような場合に、当該財産を仮に差し押さえ、将来の強制執行の実効性を確保するための手続として、「仮差押命令の申立て」という手続があります。
仮差押命令がなされると、債務者(本件ではBさん)は当該財産についての処分が制限されます(処分行為を絶対的に無効とするのではなく、将来強制執行手続が行われた場合、その手続との関係で効力が否定される、という意味です。)。
この仮差押命令の申立てが認められるための要件として、以下のようなものがあります(民事保全法20条1項)。
①被保全権利
仮差押によって保全しようとする権利の存在。仮差押命令の場合、被保全権利は金銭債権であることが必要。
②保全の必要性
強制執行をすることができなくなるおそれがあること、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあること。
仮差押命令の申立てを行う場合、①及び②の事実について証拠によって具体的に示し、裁判官に「確からしい」という心証を生じさせること(これを「疎明」といいます。)が必要です。また、不当な仮差押によって債務者が損害を被った場合の損害賠償請求権を担保するため、一定の担保を立てることも必要です。担保の金額はケースにより異なりますが、本件のように仮差押の目的物が不動産の場合は、時価の10%~25%が基準とされています。
本件で、このような要件を満たし、裁判所から仮差押命令が発せられると、裁判所から登記所に対して仮差押登記の嘱託が行われ、Bさんの土地に仮差押登記がなされます。仮にBさんが土地をCさんに譲渡し、その旨の登記をしたとしても、Aさんの仮差押が優先するので、Aさんは勝訴後、その土地に対して強制執行することができます。これによりAさんは安心して貸金返還請求訴訟を提起できることになります。
仮差押命令には、本件のような不動産を対象とするもののほか、動産や債権を対象とするものもありますが、実際に申立てをする場合、証拠の有無や担保の準備など検討すべき事項が多数あります。その際には、当事務所へ一度ご相談ください。